ぱらの通信

思い付きと思い込みの重い雑感集

忘れえぬ人々

K君とは全く友だち付き合いはなかったし、たぶん言葉を交わした事もなかった筈だ

高校2年の時に同じクラスになっただけの関係で、家がどこなのかも知らない

背が小さくて、メガネをかけた、目立たない、無口でとても真面目な生徒であり、そしてクリスチャンだった 

 

それは家庭がそうだったからなのか、個人的なものだったのか

クリスチャンだと分ったのは「倫理・社会」の授業の時だったと思う

教師がクラス全員に尊敬する人物を尋ねた際に、順番がまわって来たK君が「イエス様です」と答えたからだ

 

それを聞いた時は驚いた

キリスト教などという「宗教」を信仰する人を見た事がなかったからで、しかもイエスを「様」付け

そんな事は人前で、しかもこんな場面で告白するべきものではないと、何となく思っていたからだと思う

 

 

現在でも「カミングアウト」というものに対しては、やや否定的な考えを持っている

どうしても必要な場合以外は、当人の自意識の問題だけだろうからだ

 

K君の場合も特に告白する必要があった訳ではなかった筈で、結局は彼の自意識の問題だったと今でも思っている

ただ当人にしてみればクリスチャンである以上、やはりそこはイエス=キリストと答えなければという、やむにやまれぬ事情があったのかもしれないし、また単に嘘を言う必要を感じなかったのかもしれない

 

いや、たぶんK君はクラスメイトにどう思われるかなどを気にするような人間ではなかったに違い無く、信仰の篤さを隠す事などは考えてもいなかったのだろう

 

 

ところで俺がその時どう答えたのかは全く記憶にない

受け狙いで「ヒトラー」なんて、面白くもなんともない恥ずかしい事を言わなかったのは確かだが…

 

 

 

 

さて、ある日の世界史の授業での事、古代ローマのところでのイエスの復活に触れて教師が、史実としては信じられないけれども、と言った時だ

「先生」

とK君が言葉を発して少し沈黙

まさかと思ったら、やはり

「先生、そんなことを言ってはいけません」

普段はほとんどしゃべらないK君が、そう大きくもない声で教師をたしなめると、あとはまた沈黙

 

その教師はまだ若くて、20代後半から30代前半だったと思う

K君の発言に対して少し驚いて、それから彼がクリスチャンなのを知っていたのか知らなかったのかは不明だが

「そうだな…申し訳なかった…」

と戸惑いがらも謝罪をして、少し気まずそうに授業を再開

それで終わり

 

 

 

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卒業後K君は進学したものやら、就職したものやら

今はどうしているのだろうか

結婚はしただろうか

いまでも信仰はあるのだろうか

当時は無垢そのもののような感じだったが、今もそうなんだろうか

まさか革命家かなんかになっていやしないだろうな 

 

K君は同窓会なんかに出ているのかな

俺がそもそも出ていないから、さっぱり分からない

俺こそ忘れられている状態なんだけど

 

 

 

ところで、その教師はその事があってから暫くして学校を辞めてしまった

理由は判らない

辞めたのはK君の事が原因ではなかったと思うが、どうしてだったのだろう

 

生徒とのそんな程度のイザコザなど、今ではさほど大した事ではないと思えるが、先生はあの時どう感じたのか

もう忘れてしまっただろうか