今から数十年前に20億以上の負債を抱えて会社を潰した、三代目バカ社長「将軍」と、そのあと民事再生法により生き長らえた会社を引き継いだ、同い年の「子分」とが交わした合意書なるもののコピーが俺の手元にある
このコピーは俺のほか何名かの社員も所持している
それは十数年前に民事再生手続きが完了した頃のものだが、我々がそれを目にしたのはそれから3年経ってからの事だ(それだってもう十年近く前か…)
会社のPCの中に残っていたものを同僚が偶然見つけたのだ
ほとんどの社員が、二人の間に不正な取引があるだろうとは確信していたが、まさかその合意書がこんな形で出てこようとは、誰一人考えもしなかった
悪い事は出来ないって事だな
ただし、この内容は法的にどうなのか、専門知識の無い俺には判断できない
少なくとも我々社員はもちろん、債権者に知られると非常にまずいものではあるだろう
以下はそれを、名前などは匿名化し原文はそのままに写したものだ
(カッコ内のほとんどは筆者による註で、原文にあるカッコとは特に区別していない)
合意書
将軍(以下甲)と子分(以下乙)は以下の点について合意した。
- 甲は乙が代表を務める株式会社X(以下丙:俺が勤めている会社)の経営には関与しない。但し乙が希望した場合はその限りではない。
- 甲は乙が代表権を維持できるよう最大限努力しなければならない。
- 甲は乙が円滑に経営遂行できるよう助言を求められたら全力で支持しなければならない。
- 甲はY社(将軍の知り合いの会社)の丙の持ち株について乙の支配株になるようしなければならない。
- 乙は甲の承諾なしには株式の譲渡、売却をしてはならない。
- 乙は甲の承諾なしに代表取締役を辞任してはならない。
- 乙は甲の承諾なしに丙の株式を増資並びに新株予約権を発行してはならない。
- 乙は甲に対して月額金500,000円、車両費220,000円、月額200,000万(200,000円の誤りか)を上限として航空券代を支払う。
- 監査役はZ(将軍の母親)とし監査役報酬は月額300,000円とする。
双方以上の約束を順守できない場合は甲は乙に対するすべての権利を喪失しまた乙は甲にたしてZ、Q、将軍、R執行役員(Qは将軍の知人,Rは元社員)から譲渡を受けた株式を無償で甲に譲渡しなければならない。また甲乙間で係争が発生した場合は双方紳士的に協議し解決しなければならない。協議が不調の場合は東京地方裁判所に於いて裁判を行う。
また以上の効力は双方が生存している限りである。
以上双方署名し実印を捺印し2通作成し双方保管する。
甲
乙
乙の連帯保証丙
とまあこんな文書がメール添付の上やり取りされていたようなのだが、上の合意書以上面白かったのが、そのメールでの2人のやり取りである
それは200X年7月27日午前1時22分の、将軍から子分への送信記録から始まっている
将軍:双方後で嫌な思いをしないように、契約書を作成しました。気になるところは修正して返送してください
子分:お疲れさまです。少し修正し、付け加えさせてもらいました。車両費ですが、200,000円になりませんか?2万がどうこうでは無いのですが、きっぱりした数字にしたかったので。 修正はしていませんが ご確認ください。*1
将軍:いいよ20万にしましょう!!プリントして「子分」の社長印と社印を押して送ってください。俺もしてから公証人役場で印もらってきてから1通そっちに送ります。重要なのは自宅に送ろうか?*2
子分:了解しました。月曜日までに準備して送ります。自分の分の控えの送り先は少し考えさせてください。
ここまで7月27日の分でちなみに午後5時39分が最後
以下は7月31日午前3時18分から再開したメール
ただ上のメールからこのメールまでの間に何度かメールか電話でのやり取りがあった模様
将軍:Saの件はあまり頭に来て深追いしない方がいいよ。「子分」があんな奴相手にすることないよ!!冷静にね 会長からはキッチリお金返却してもらった方がいいよ!!*3
子分:深追いしないようにします。とにかく民事再生が上手くいく事だけ考えて頑張ります。
将軍:それを聞いて安心したよ。「子分」は頭がいいから大丈夫だよ。俺も応援してるから。会社はどうでもいいから「子分」が幸せにならないとな。頑張ってね。
PCに残っていたのは、この7月31日午後4時14分のメールで最後
当時は、同い年とは思えない何とも麗しき「師弟愛」があったのかと思う
その後の二人の関係を現在の時点から見ると、悲喜劇以外の何物でもない
将軍はともかく、少なくとも子分はせめてこの頃に戻りたいだろうな
ところで、いくら会社のPCの中にあったとはいえ、こんなプライベートのメールを公表してもいいものなのだろうか
固有名詞は皆伏せてあるからいいような気はするが