ぱらの通信

思い付きと思い込みの重い雑感集

みなし児のバラード

先日『神が愛した天才数学者たち』(吉永良正)を、とても面白く読んだ
タレスピタゴラスから始まってガロアまで約30名の数学者列伝
数式はすっ飛ばして読んだけど
 
数学者っていうのは、例えば文学者などとは違って、生い立ちはあまり重要ではないだろう
だからその業績と無縁なところで関心を持つのは何だか邪道な感じはする
それ数学とは関係ないですよね、と言われたらスゴスゴと引き下がるしかないような…
 
ま、そんな事はさて置いて、興味を惹かれたのはダランベール
ダランベールといえば、ディドロの仲間とかそのくらいの印象しかなかった
18世紀フランスの啓蒙主義とか百科全書とかで教科書に必ず出てくる、歴史的有名人ではあるが
神が愛した天才数学者たち (角川ソフィア文庫)

神が愛した天才数学者たち (角川ソフィア文庫)

 

 

ダランベールは捨て子であった
ただし両親は知られており、母親はタンサン侯爵夫人といって人気文学サロンの主催者でもある
不倫の末の私生児であり、育児を嫌った母親が教会に捨てたのだったが、その後に貧しいガラス職人のルソー夫婦に里子に出され(あのジャン=ジャック・ルソーとは無関係)、実の父親が教育費を支払っていた
 
後年、ダランベールが学界の寵児となった頃、生みの母親だと名乗り出て自分のサロンに招待したタンサン夫人に対して、「あなたは私を産んだ女性に過ぎません、私の本当の母親はただひとり、ガラス職人のルソー夫人です」ときっぱり招待を断ったという
そしてそんな生い立ちのせいか、彼はラグランジュラプラスなどの貧しい家庭出身の後輩数学者に優しかった
また、論争相手の先輩数学者オイラーに対しても最大限の評価と敬意は変わる事がなかった
 
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ダランベール(1717〜1783)
 
 
 
今回のタイトルはダランベールに因んで「みなし児のバラード」
これは1969年放映開始のアニメ版『タイガーマスク』のエンディング曲*1のタイトルである
俺はリアルタイムで観ていて、このシングル盤レコードも持っている
 


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原作は梶原一騎で、アニメ版の最終回は記憶にないけれど、マンガ版の最終回なら知っている
タイガーマスクこと伊達直人は本当の姿を隠して、自らの出身である孤児院を訪れては、そこの子供達にキザな軟弱男として馬鹿にされつつも慕われている
最終回で伊達直人は不慮の事故で死んでしまうのだが、結局そのためにタイガーマスクであるとは子供達に知られる事がないのだ
 
どうしてこんな悲しい終わり方にするのか、とは思う
そして梶原一騎、詳しくは知らないけど、こんな終わり方にする印象がある
有名な『あしたのジョー』のそれもそうだし、『巨人の星』もとても悲しい終わり方で、小学生の頃に読んで凄くショックを受けた
 
 
さてダランベール、36歳の時にレスピナスと言う22歳の女性と出会い恋に落ちた
彼女もダランベール同様の不義の子で、20歳まで修道院に入れられていたという生い立ち
そしてそれから約10年後にふたりは同棲する事になる
 
ところがこのレスピナスさん、若いスペイン貴族と恋仲になったり陸軍大佐と恋に落ちたりと、なかなか情熱的な女性だったようで…
ダランベールに看取られて彼女は息を引き取る事になるが、今際の際に呟いたのはかつての恋人、陸軍大佐の名前だったという…
それでもダランベールは深い悲しみの中で綴った、彼女に捧げるふたつの文章を残しているそうだ
 
結局は一生涯独身のまま65歳で没したダランベール
実の母親と唯一の恋人に裏切られるって、こんな悲しい事はない
最晩年のダランベールの胸に去来した想いはどんなものだったのだろうか
 
これらのエピソードにグッと来て、単純にもダランベールのファンになっちゃった
だからもうちょっと詳しく書かれた評伝か何かないかと探してみたけど、残念ながら見当たらない
有名人だから1、2冊くらい出ているかと思ったのに
 
(敬称略)
 

*1:作詞 - 木谷梨男 / 作曲・編曲 - 菊池俊輔 / 唄 - 新田洋