ぱらの通信

思い付きと思い込みの重い雑感集

敗れてなお称賛される者の事

川原正敏の『修羅の門』という格闘技マンガがあった

月刊マガジンで1987年から96年まで連載されていたものだ

もっとも俺は、弟が全巻持っているので実家でまとめて読んだのだったが(もう20年ほど前の事だ)

 

主人公は陸奥九十九(むつつくも)、二十歳前後だろうか

陸奥圓明流という、1000年間無敗を誇る門外不出かつ一子相伝古武術流派の後継者である

それは武器を使わない実践的武術であり、相手が武器を持っていようと体格差があろうと問題としない必殺無敵の人殺しの技なのだ

 

長く歴史の陰に隠れてきた古武術なのだが、九十九は全日本異種格闘技戦主権に出場し優勝する

陸奥圓明流が最強であることを証明するためとともに、自分でこの流派を終わらせるためだ

恐らくそこには圓明流史上屈指の才能を持つ天才と言われた実兄を試合中に殺してしまった事が影響しているのだろう

 

ま、それはともかく九十九、天才ヘビー級プロボクサーのアリオス・キルレインと試合をしようと(もちろんボクシングルールに則って)アメリカに渡る

紆余曲折を経て*1、ヘビー級統一王座トーナメントに出場した九十九は、元ヘビー級チャンピオンで、一度引退して宣教師をしていたジャージー・ローマンと戦うことになる

ローマンは「神の声」によって相手の行動があらかじめ聞こえるという神秘的能力を持つ温和な男で、復帰後も20戦20勝20KOを誇る

 

いざ試合となると九十九の攻撃もその声によってことごとくかわされてしまう 

左フック、右アッパー、回り込んで右ストレート、などの声を聞きながら、次々と先回りして来るローマン

九十九は徐々に劣勢となってゆく

 

しかし次第にこの声と九十九の攻撃がズレて来る

ローマンに聞こえる「神の声」を九十九が超えて来るのだ

九十九、怒濤の反撃

 

やがてローマンは気付く、自分は九十九を正しい道へ連れ戻すために神から遣わされたのだと

ローマンの膝が崩れ、九十九が勝利する

そして九十九が独りごちる「それは神の声なんかじゃなくて、単にアンタが強かっただけだよ」

 

何つっても『修羅の門』の中で一番グッと来る名台詞なんだな〜

手元に本が無いのでネットで調べながら記憶に頼って書いたから、細かな違いや誤りがあるのかもしれないが、それはそれでいいじゃないか

だって俺の中の『修羅の門』はそうなっているんだから

 

修羅の門(15) (月刊少年マガジンコミックス)

 

先日のWBSSバンタム級決勝、井上尚弥VSノニト・ドネア戦、下馬評に反して最終ラウンドまで縺れ込んでの辛勝だった井上

でも井上はもちろんだが、ドネアの強さや巧さにも感嘆した

試合終了後に両者抱き合った時には、こちらも胸が熱くなって危うく家族の前で泣くところだった

 

インタビューで井上が「めちゃめちゃ強かった」とドネアを称えているのを読んで、またグッと来た

この程度の事に感動するのは加齢による経年劣化なのかもしれない

なんだろう、このだらし無さは

 

(敬称略)

 

*1:この手の都合の良さを気にしてはいけない