ぱらの通信

思い付きと思い込みの重い雑感集

9月の追悼集

これをシリーズ化するつもりは全くないけれども、今月はどうした訳か個人的に気になっていた人たちの訃報が立て続けにあったので書いてみることにした

 
 
カーズ(The Cars)というアメリカのニューウェイヴ・バンドの中心人物で、ヴォーカルとギターを担当していた
1973年から音楽活動をしていたそうで、有名になったのは78年のカーズ・デビューから
だから、64年デビューで1947年生まれのデヴィッド・ボウイより年上の1944年生まれだと知った時は腰を抜かすほど驚いた
 
実際に聴くまではテクノ風味の不思議なロックだと思い込んでいたんだけど、ところがどっこい輪郭のはっきりしたポップなアメリカンロックだった
レコードのジャケットはロキシー・ミュージックの次くらいに悪趣味(必ずしも悪い意味ではない)
1984年の大ヒットなので結構聴いたことある人も多いかも
うちの子供達はテレビでその訃報を見て、アニメの『カーズ』の関係者だと思っていたようだ
享年75
 
 
1961年生まれ、長年にわたって双極性障害に苦しんでいた
死因は心臓麻痺
 
カート・コバーンは「最高のソングライターのひとり」、デヴィッド・ボウイは「シド・バレットブライアン・ウィルソンの偉大な伝統を受け継いだ(中略)アメリカの宝だ」と称賛した
シンプルでどことなく不安定な歌
 
俺はCDなどは持ってなくて、たまにYouTubeで聴くくらいだった
正直言うと、聴き続けるには退屈を感じてしまって決して良いリスナーではないんだけど、ずっと気にはなっていた
 
本人の描いたジャケットのイラストは秀逸で、カート・コバーンがそのプリントTシャツを着て有名にもなった
創作と入退院を繰り返していたというが、この死はようやく訪れた安らぎだったのか、という解釈は良いのか悪いのか
享年58
 
 
最後は池内紀(いけうちおさむ)
1940年生まれのドイツ文学者、エッセイスト
カフカゲーテファウスト』などの翻訳家として有名で、また温泉や文学やドイツ語圏の文化などに関する膨大な数のエッセイがある
 
エッセイはどんな事を語っていようと、平明でかつ独特な語り口
でも、有名なのはやっぱりカフカの翻訳だろうか
文庫等であらかた読んではいたけれども、新たに池内訳が出たのを機に読み返した
 
グリム童話も訳している
一般に童話は「〜しました」とか「〜だったのです」などの「ですます調」で書かれているものだが、「〜した」「〜だった」などの簡潔な語尾で訳されていたのが新鮮に感じた
 
ずっと昔に読んだ、澁澤龍彦についてのエッセイだったか、あるいは文庫の解説でだったか
自分の書架から中学生の息子が澁澤の本をあれこれ持ち出して読んでいる
そのうち『世界悪女物語』が持ち出されているのを知り、君にはまだ悪女に用があろうとは思えないが、と締めくくられる
その息子さん、現在はイスラム政治研究者の池内恵(さとし)である
 
実は亡くなったのは8月30日だが、俺が知ったのはつい二週間ほど前、その池内恵ツイッターを見てだったのだ
享年78
 
(敬称略)