ぱらの通信

思い付きと思い込みの重い雑感集

尾籠な話

先日、『落窪物語』を読んだ

平安時代の「小説」で、その成立は『源氏物語』より古いとされている

作者は源順(みなもとのしたごう)という三十六歌仙の一人だそうだ

原文ではなく、小島政二郎の現代語訳で読んだので苦労はしなかった

現在は田辺聖子の翻案が文庫で手軽に読める

 

ま、そんなことはどうでもいい

この『落窪物語』、継子いじめにあっていた主人公(落窪の姫)がイケメンの超エリートに見初められて幸せに暮らしましたとさ、というシンデレラストーリーだとは知っていたが興味が持てずにいた

たぶん読む事はないだろうと思っていたのに、こうして読んでみたのには当然ワケがある

 

林望『古今黄金譚』の中で、「落窪の姫」の「落窪」とは、継母の屋敷の隅にある一段下がった場所で、便所または便器置き場だとの解釈がある、と書いてあったからだ

そこで物好きにも読んでみたのだが、なるほどこのお話、例のイケメンエリートが牛や馬の糞にまみれてみたり、継母から落窪姫に差し向けられた助平ジジイが下痢便を漏らしてみたり、などオゲレツ場面が当然のように出てきて、なるほど「落窪姫」は「便所姫」なのかも、と少しだけ思った(少しだけね)

 

ま、こんな興味を引くのも物語の前半だけで、あとは姫がエリートと結ばれて継母に復讐し反省させると、みんな幸せになる、なんていう内容で、はっきり言って後半は退屈してしまったけど

 

 

という訳でこの『古今黄金譚』、サブタイトルが「古典の中の糞尿物語」となっていて、まあ万人向きとはいかない内容だ、な

今流行の(?)『万葉集』や『古事記』から始まって、『竹取物語』『宇治拾遺物語』『新撰犬菟玖波集』など、日本古典文学の中からウンコが出てくる場面を取りだして、衒学的かつ面白おかしく解説してくれている本である

 

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俺自身もかつて芥川龍之介の「好色」を読んで呆気にとられたし、『源氏物語』の冒頭(「桐壺」)の「あやしき業(わざ)」って本当にそういう意味なのかって今でもピンと来ないし、この本では触れられていないが、谷崎潤一郎の『細雪』の、長々と読んで来た挙句の、あの衝撃のラストに戸惑う、なんて経験もした

あと忘れられない村上龍の『69』のワンシーンには大いに笑わされた

 

 

この他に山田稔*1の『スカトロジア』とか、アラン・ダンデス*2の『鳥屋(とや)の梯子と人生はそも短くて糞まみれ―ドイツ民衆文化再考』なんていうのも読んだことがある

 

古今黄金譚 (平凡社新書)

古今黄金譚 (平凡社新書)

 

 

スカトロジア―糞尿譚 (ノアコレクション (7))

スカトロジア―糞尿譚 (ノアコレクション (7))

 

 

鳥屋(とや)の梯子と人生はそも短くて糞まみれ―ドイツ民衆文化再考

鳥屋(とや)の梯子と人生はそも短くて糞まみれ―ドイツ民衆文化再考

 

 

これらは「ウンコと文学」、「ウンコと民衆文化」をテーマとしていて、それが「ウンコと音楽」ということになると、有名なモーツァルトの書簡という事になるのかな(「音楽」じゃないか)

こういう本は需要が限られるせいか、すぐに絶版となってしまうので、古書店で見つけたら、迷わずとにかく買っておくべきだ

眠れない夜などに読んだら、ますます眠れなくなること請け合いである

 

ところでこの手の「笑い」や「ネタ」っていうのは、良くも悪くも「男性社会」のものなのかな、と上野千鶴子東京大学入学式祝辞が話題な中、思ったりする(少しだけ)

 

(敬称略)

*1:小説家、元京大教授 フローベールやゾラの翻訳で有名

*2:アメリカの民俗学者、らしい…