最近はあまり見かけなくなったが、ブックオフにはよく世界文学全集が並んでいたものだ
殆どが箱入りのキレイなもので、しかも100円200円位だから、これだと思うものは悩まずに買うようにしている
大きくて場所を取るし、買っても果たして読むのかな、なんて悩んで買わなくて、結局あとで読みたくなって、でもその時にはもう無い、なんて事が多かったからだ
ネットで買おうとすると、あの手は結構高いから尚更だ
そんな訳で、俺は世界文学全集のフローベールの巻を何冊か持っている
フローベールが好きだって訳じゃないけど、まあ何となく
それぞれ作品は重複していて、翻訳者もさまざま
だから、先日読んだ『三つの物語』を、俺は4種類所持している事になる
その名の通り三つの短編小説が収められている『三つの物語』、それぞれ以下の通りだが、互いの関連性は無い
- 「素朴な女」作者の執筆当時の19世紀の話
- 「聖ジュリアン伝」中世の伝説
- 「ヘロデヤ」紀元後まもなくの新約聖書時代のエピソード
二十代の頃、「素朴な女(純情な女)」と「ヘロデヤ」を菅野昭正訳で、「聖ジュリアン伝(ジュリアン聖人伝)」だけ鈴木信太郎訳で読んだことがあった
鈴木信太郎の翻訳は、旧字体になっていて、衒学的ながら中世の聖人の話にはぴったりな感じがしたから
今回『三つの物語』を読み返すきっかけになったのは、「ヘロデヤ」の訳者が辰野隆(たつのゆたか)となっている、古い全集の巻を買ったからだ
ちなみに辰野隆(1988~1964)という人は、東京帝国大フランス文学の教授で、教え子に渡辺一夫や小林秀雄、大江健三郎などがおり、また太宰治が東大仏文を選んだのは辰野を慕ってだという
で、辰野「ヘロデヤ(エロディヤス)」、訳文は旧字体で、いろんな固有名詞が漢字になっているけど、さほど読みにくさは感じない
でもこれ、新約聖書の原始キリスト教時代や当時の古代ローマ帝国時代の知識が無いと、内容がすっと入ってきてくれない
同じ題材を扱った、オスカー・ワイルドの『サロメ』の方が断然平易
ちなみに「ヘロデヤ」では、サロメが出てくるのは終わりの方になってからで、出番はちょっとだけになっている
この度、三つとも再読して、予想外に一番良かったのが「素朴な女」
予想外というのは「あれ、こんなに良かったっけ」っていう
かつては「ふ~ん、なるほど、自然主義文学って感じだな」みたいな感想だったが…
いやいや、お勧めですよ、感動しちゃった
これはフローベールの幼時からの家政婦をモデルにした、何て事のない話だと言えばそれまでなんだけど、とても良かった
タイトルの定訳が無く、「純情な女」「純な心」「まごころ」などが他にもある
たぶん直訳なら「心」とすべきで、「女」とするのは意訳なのかなとは思うけど、今回読んだ山田稔訳の「素朴な女」というのが、内容からは一番しっくり来る感じ
で、残るは「聖ジュリアン」
これは奇譚、お伽話って感じだろうか、難しい所は一切無く、たぶん誰でも興味があれば面白く読めると思う
これまた旧字旧仮名で難しい言葉や漢字が多く、しかもルビも振ってないから調べるのにも一苦労だったが、それでも「古色蒼然」とした趣があって良かった
新訳の文庫も出ているようです
という訳で、最後に我が敬愛するジュリアン・コープ先生の1987年リリース「セイント・ジュリアン」をお届けして終わりにしよう(音声だけですが)
ではまた