ぱらの通信

思い付きと思い込みの重い雑感集

2017年の収穫は『ペット・サウンズ』

2017年ももう終わる

そこで今回は、個人的あくまで個人的な今年の収穫と思うものを書いておこう

今年の収穫なんて言っても、そう毎年あれこれある訳じゃないし、今年も例外ではないのだが、でも一つだけ、これっていうのがある

ビーチ・ボーイズ1966年作の『ペット・サウンズ』だ

今更何を、と言う声もあろうかと思うが、今年のこれは文字通り「収穫」だった

 

言うまでもなく、『ペット・サウンズ』が名盤中の名盤だという事は、もう何十年も前から言われている

俺も十代の頃からその事は知っていた

 

ビートルズの『ラバー・ソウル』(65年)に対抗してビーチ・ボーイズの中心人物ブライアン・ウィルソンは『ペット・サウンズ』を完成させるのだが、更にその『ペット・サウンズ』を聴いたビートルズ(とりわけマッカートニー)がその刺激を受けて『サージェント・ペパーズ〜』(67年)を作ったという話はロック史における有名なエピソードだ

 

そういう訳だから、この『ペット・サウンズ』のCDは、20年以上も前に買っていて聴いてもいた

実はこの時点でビーチ・ボーイズの曲で知っていたのは「サーフィンUSA」、「カリフォルニア・ガールズ」、「グッド・ヴァイブレーション」、「ゴッド・オンリー・ノウズ」の4曲のみ

しかも「グッド〜」と「ゴッド〜」に関してはカバー曲で知っていたに過ぎない(それぞれトッド・ラングレンデヴィッド・ボウイ

はっきり言って、その4曲はあまり好みではなかったので、CDを買ったのは、ロック史的な関心からであった

そして案の定、俺向きではないな、の結論に至っていた

 

とは言いながら、折にふれ聴いてはいたのだ、俺向きじゃないなと思いながら

それが今年の6月だったろうか、またどんな理由だったのかは忘れてしまったが、ふと聴きかえしてみたら、これが何とジンワリと沁みてくるではないか

何だか60年代のアメリカ青春映画のサントラみたいに聴こえてきたのだった

 

なぜ急に心に沁みてきたのかが自分ではよく分からないところだが、とにかく何度も聴いて今年の夏を過ごしたのだった

正に20年も前に種蒔きして、何度か水遣りをし、ようやく今年収穫できたという塩梅だ

 

 

PET SOUNDS

 

 


Beach Boys "I Just Wasn't Made For These Times"

 

さてこの『ペット・サウンズ』、ブライアン・ウィルソンがライブ・ツアーをやめ、自宅に籠って作曲活動に専念するようになり、LSDなどのドラッグに溺れていった末の作品であるが、前述したようにビートルズへの対抗心で作り上げた、一世一代の大傑作アルバムと呼ばれるはずだったのに、期待は見事に裏切られてしまった

それまでのアメリカン・ヒットソングから暗い内省的な作品への急激な変化は、レコード会社やファンばかりか、バンドメンバーからも望まれてはいなかったのだ

 

ますますドラッグに溺れていったブライアン・ウィルソンは、更なる傑作を目指して『スマイル』に取り掛かるのだが、結局未完成に終わってしまい、やがてブライアンは廃人同様となってシーンから徐々に姿を消していってしまう

 

 

さてそれからビーチ・ボーイズをもっと聴きたくなった俺は、例の『スマイル』の再構成盤『スマイリー・スマイル』と『ワイルド・ハニー』(どちらも67年)を購入した

感想は『ワイルド~』の方が好きで、『スマイリー~』は何だかやりすぎな印象を受けた

もし俺がその頃リアルタイムで聴いていたら『ペット~』にはがっかりした口だったんじゃないかなと想像する

 

あとはビーチ・ボーズ関連の本を買ったり、立ち読みしたり、ネットで調べたりしたが、あまりマニアックなものはついていけないので、せいぜいがジム・フリーリ著・村上春樹訳『ペット・サウンズ』など

あとは細野晴臣のエッセイや、山下達郎の『ペット~』解説文が良かった

 

ちなみに俺の『ペット~』は輸入盤だったので、件の達郎ライナーの存在はネットで知ったのだが、タイミングよくブックオフで見つけた渋谷陽一編『ロック読本』に収められており、即購入、じっくりと堪能した

フリーリの本など、俺にとって初の村上春樹本だったので、妻から「ハルキストか?」などと揶揄されながら読んだ

 

 

ブライアン・ウイルソンはその後、88年に奇跡の復活を遂げ、現在に至っているが、2004年には例の『スマイル』を再制作している(ちなみに俺は『スマイリー~』を優先してしまったので、この再制作版は未聴)

 

 

ところで、今も『ペット・サウンズ』の国内盤には山下達郎の解説が付いているのだろうか

ブライアン復活前の文章なので、ひょっとしてもう付いて無いのかもしれない

曰く「たった一人の情念のおもむくままに作られ」、商業主義の「呪縛の一切から真に逃れ得た、稀有な一枚」であり、「それ故にこのアルバムは異端であり、故に悲しい程美しい」と結ばれるこのライナーは、ビーチ・ボーイズ・フリークでありながら、徒にマニアックに走らず、初心者にも分かりやすく、簡にして要を得、かつブライアン・ウィルソンの悲劇を浮き彫りにした名文である

 

 

 

(敬称略)