久しぶりの「悪党列伝」
今回はふたり
ウチの決着がついてしまう前に、という訳だが、少し長くなってしまった
ひとりずつで、とも思ったが、ここは長編気分でお読みいただこうかな
まずは、もう十数年前に退社したAさん
現在は80代後半
このAさん、在職中はとても偉い人で、ウチの土台を築き上げた人ではあるんだけど、どうやらおカネにだらしがない人だったみたいで…
退社してから知ったが、何と何千万という横領をしていたらしい
お客さんに商品を売って、そのいくらかを着服するという手口だったようだ
そのお金はそのままで返して貰ってはいない
ウチは横領天国で、他にも数人やらかして退社している
そしていつも解雇するだけで、返済は本人の意思に任せているようなところがあった
なんて寛容で余裕のある会社だったのだろうか
そのAさん、退社後は何と信じがたい事に、かつてのお客さんのところを回ってお金を借りまくっていたようだ
なぜ分ったかというと、お金を貸したお客さんが店に来て教えてくれたから
いや、もう一人や二人じゃない人数だ
返済だってたぶん、ちゃんとしてなさそうな感じ
もういい恥さらしで、何故か俺たちがもう既に辞めている元上司のために謝罪するという…
ま、関係ないからいいんだけどさ
それにしても、どんな暮らしをしているものやら
たまに店に来たりして、俺たちもどう接したらいいのかよく分からなかった
で、しばらく見ないね、なんて言ってたら、この前久々に現れた
うっ、気まずい…
でもなんかAさん、ぼおっとしてなんかいつもと違う
そして俺に何を今更っていう質問をした後、自己紹介を始めるではないか
あっ、そういう事か…
何だかそんな姿見たくなかったな
人生ってなんだろう
悪党呼ばわりするのも最早どうかと思うけども
もうひとり
この人は悪党では全然ないけど、まあ面倒くさい人だからこのカテゴリーに入れちゃおう
悪党という言葉は必ずしも「悪い奴」という意味ばかりではないようだし
今から10年ほど前に退社している現在70代半ばのKさん
かの有名なK大学法学部出身なんだけど、紆余曲折を経て、ウチみたいな学歴不問の三流会社に入った人だ
ま、それはいいけど、このKさん、ひとの三倍以上は軽〜く売っちゃう人で、もう誰も逆らえないくらい無敵だった
人のよさそうな顔してるんだけど、気難しくて、だから尚更面倒くさい訳だ
でもこの人の功績というのは計り知れない
だからこの人にそのまま頑張ってもらっていれば、今頃は弁済も終わってこんな有り様じゃなかった可能性がある
では何故再生途中で辞めてしまったのかというと、前社長(子分)が辞めさせたようなものなのだ
再スタートを切った当初はそれでも、子分とKさんは協力体制にあったのだが、徐々に考え方の違いが浮き彫りになってきた
子分としてみれば、いくら若いとはいっても(当時30代前半)社長の考えが絶対のはずなのに、Kさんはそれに異を唱えてくる
子分としてはそれがもう耐えられないのだ
俺の考えとしては、Kさんにガンガン売ってもらっていればそれでいいし、取引先の協力も簡単に得られる
だから子分に、Kさんを利用してればいいじゃない、と言ってたんだけど…
そんな意見を言う俺のこともウザくなってきたのか
そんなこんなで、俺とKさんはセットでヒマな店舗に追いやられた
そこで約1年ご一緒させていただいた
でもさすがKさん、そんな店でもメチャクチャ売るワケ
だってKさんの顧客が尋ねてくるんだから
ま、ヒマな店だという事に変わりは無いので、ほとんど毎日一日中Kさんとお喋りしていたけど
それでも子分はKさんをウザがって、急に定年制を設けて追い出しにかかった
Kさんも暮らしには困っていないご身分だったので特に反抗するでもなく辞めてしまった
Kさん、売上もそうだけど、もし子分と三代目バカ息子との密約を知ったなら、とことん追求しただろう
だから大先輩に対する言葉遣いじゃないけど、本当に惜しい人材を失ったと思う
と、ここまではいいとして、面倒くさい人だというところに帰ってくると…
今でも子分に対する恨み辛みを持っていて、うちの会社に対する反感も抱き続けている
子分なんかとっくの昔にいなくなっているのに
というのは、俺たまに会うことがあるから、その都度聞かされるんだ
俺はKさんの呪いを免除されている数少ないうちの一人だけど、それでも会うと必ず毒を浴びせかけられる
まぁごもっともなんだけど、さ…
Kさん、もう少しでウチも無くなるんで、その時は急にガックリ来ないで下さいよ
ウチが潰れるのをずっと期待してたようなところがあるから
いや、そりゃないか