香山リカ2008年刊行の『ポケットは80年代がいっぱい』をようやく入手した
現在絶版だからレア本だって訳じゃないだろうけども、なかなか安く出ていなかった
ご存知、香山リカは精神科医で、沢山の著作があり、またテレビのコメンテイターとしても活躍しているが、俺はその方面については一切興味がない
俺の関心は、香山の本業とは関係なく、彼女の青春時代、つまり本の帯にある通り「テクノと新人類とスキゾキッズの時代」の回顧録である、というところにあった
表紙にある文をそのまま引用すると
一九八一年、サブカルチャー勃興期の渋谷。
伝説の自販機雑誌『HEAVEN』の編集部が香山リカの出発点だった。
「新人類」「ニューアカデミズム」「テクノ」「ニューウェーブ」など、数々のキーワードを生み、多くの才能を排出した八〇年代サブカルチャーの現場を描く、おしゃれ・キュート・アヴァンギャルドな八〇年代クロニクル。
となっている
高校生の俺が、田舎から関心を持って眺めていた「シーン」に直接関わっていた人物の証言という訳だ
ちなみに言うと香山リカは俺より5歳上である
香山リカの事は、高校生の時に愛読していたロック雑誌『フールズ・メイト』でよく見かける名前だったので、当時から知っていた
だから、後に精神科医としてテレビで見た時はとても驚いた
ただ「香山リカ」が本名ではなく、しかもそれが「リカちゃん人形」の設定の名前だという事は知らなかったが…
この本に山崎春美という男が登場する(香山リカの命名者でもある)
彼は「タコ」という伝説的バンドの中心人物で、1983年リリースのアルバム制作に関わったのは坂本龍一、町田町蔵、佐藤薫などの錚々たるメンツであった*1
自主制作盤であったので、地方在住の高校生にはやや入手困難で、上記メンバーによるスタジオ盤は買えずじまい
結局同年リリースのライブ盤しか持っていない*2
これがまた何だかよく分からない代物で、その夏に聴いたっきりだ
即興演奏をバックに、山崎が「草葉の陰から呪ってやる」と何度も唸り、終わりの方では「堪忍してください」と繰り返すのだ*3
ライブ盤『セカンド』霜田恵美子によるジャケット
当時雑誌で見た山崎春美は、有名な(?)「自殺未遂ライブ」で、自傷行為の末に血塗れになるなど、頭のイカれたジャンキーだと思っていた
しかし香山の証言で、実際はちょっと切って血を出す程度の演出であり、かなりの変人ではあったようだが、本物の狂人ではない事が分かった
ファースト・アルバム『タコ』花輪和一によるジャケット
佐藤薫(EP-4)や町田町蔵(作家の町田康)、北村昌士(『フールズ・メイト』初代編集長 故人)もちょっとだけ登場するが、できればこの3人の事も山崎くらいの分量を費やして欲しかった*4
他にはロリータ順子、戸川純、野々村文宏、松岡正剛、浅田彰などなど
俺もその後すぐ東京に行く訳だが、その頃にはその「シーン」は終わりかけており、時代はそろそろ「バブル」に入ろうとしていた
個人的には、せいぜい1985年までが「ニューウェーブ」時代であり、以降の流行文化にはほとんど興味を失ってしまうのだが、彼女も同じような感慨を持っていたというのには、事情は違えど「やっぱりか」と思った
そして彼女は86年に東京を一時離れる事になり、この本で取り上げられた時代に別れを告げる
この本を読んで、ずっと俺は香山をゴリゴリのサブカル女子だと思っていたのだが、どうも「シーン」への関わり方がやや消極的で、結果的にその現場にいただけ、という印象を持った
いずれにせよ当時のあの独特の渦に巻き込まれたなんて非常に羨ましい
でも俺だったら恐ろしくなって逃げ出してしまったかもしれない
是非とも第二弾か大幅増補版で、もっと沢山の怪人たちのエピソードを紹介してほしいところだ
対談も追加で、山崎春美にご登場願えないだろうか
なんて、当時のその方面の事を知っている人と興味のある人にしか需要のなさそうなこの本は絶版も止む無しだろう
決して推薦図書ではない
ところで『ポケットは80年代がいっぱい』というタイトルについて
YMOの大ファンであった香山の事だから、93年YMO再結成の時のシングルで、プレスリーのカバー「ポケットが虹でいっぱい」を知らないわけはないと思うが、それに掛けたタイトルだったのだろうか
まさか…
(敬称略)