ぱらの通信

思い付きと思い込みの重い雑感集

大村憲司の『春がいっぱい』CD版を遅ればせながら遂に入手しましたの巻

大村憲司のギターが好きだ
もちろん好きなギタリストは他にも沢山いるが、技術・音色・音楽性などなど総合的に考えると大村憲司がナンバーワンである
YMOのサポート・メンバーだった頃は俺が中学生の時で、リアルタイムで夢中になっていたから尚更なのだが、そんな同時代性というのも高ポイントにつながっている
例えばジミ・ヘンドリックスやミック・ロンソンも大好きだが、同世代性が薄いので、少しポイントが下がってしまうというわけだ
 
 
ロック・ギタリストなので、ソロというのがその魅力の中で占める割合は大きいわけだが、大村憲司のソロ・フレーズはエモーショナルでドラマチック…なんて陳腐な形容でお恥ずかしい限りだが、しかし俺にとっては最早「刷込み」のようなもので、一つの理想形になっている
いくつかサンプルを紹介する
 
王道のギターソロでは、例えば高橋幸宏「The Core of Eden」での粘っこいブルージーなやつで、実にロックなソロ
あと別のタイプとしては、例えば矢野顕子「また会おね」、飯島真理の「Secret Time」などで聴くことができる、曲の終わりに歌の後ろで盛り上げていくソロ
更にもう一つはノイジーな、例としては高橋幸宏「Grass」とか、自身の「Knife Life」などで聴けるニュー・ウェーブ的なソロ
特に二つ目の「曲の終わりに歌の後ろで盛り上げていく」タイプのソロが、個人的には大村憲司らしさの一番出ているものと感じている
というのはこの手のギターソロはそんなに珍しくはないはずだが、大村憲司が弾いているものはとにかく印象深い
ギターがジワジワっと後ろから出てきて、決して弾きまくるという事はせず、歌に寄り添うように並走、時には歌を引き継ぐ形で曲がフェイドアウトしていく


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ソロ以外ではバッキングの妙というか名人芸っていうのがあって、効果音的に音を置いて彩りを添えるタイプの、ちょっとギターの開放弦風なハーモニーなんだけど、ポリスのアンディ・サマーズに近い感じの、何と言えばいいのやら、まあとにかく名人芸
 
 
大村憲司は1998年11月28日に肝硬変で亡くなった(享年49)
リットー・ミュージック刊「ギター・マガジン」の1999年3月号では、大村憲司の追悼記事が組まれている
大村憲司の生前のインタビューの他、YMOの3人、矢野顕子大貫妙子加藤和彦山下達郎など、「ギター・マガジン」にはあまり縁のないミュージシャンのインタビューが載っていて、俺にとっては永久保存号だ
 
その追悼記事の中で印象深いのは、コード(和音)のおさえ方の違いによる音の響き(ヴォイシング)の使い分けが凄かったという加藤和彦と、アレンジャー的には決して使いやすいミュージシャンではなかったのは「本物」だったからと語った坂本龍一山下達郎
 
 
昨年、同じくリットー・ミュージックから書籍『大村憲司のギターが聴こえる』が発売されている
俺はまだ手に入れていないが、生前のインタビューやら機材の紹介やら未発表音源のCDやらが付いた素晴らしい内容のようだ
 
 

春がいっぱい

 
 
 
という訳で爽やかなギターインストで幕を開ける『春がいっぱい』である
YMOのメンバーをバックに制作されたこのアルバムは、当時のYMO的、ニューウェーブ的風味がきいていて、ギタリストのアルバムとは一風変わったポップな仕上がりだ
生前のインタビューでは、周囲では賛否両論あったと語っているが
 
ギターインスト3曲に間奏曲風のが2曲、歌もの5曲の全10曲、表題曲「春がいっぱい」はシャドーズのカバー
YMOの80年ワールド・ツアーで毎度演奏されていた「Maps」も収録されていて、それがアルバムの白眉か、いやさっきギター・ソロのところで触れた「Knife Life」も地味ながらメチャクチャカッコいいし…
 
残念ながら、大村憲司は生前に4枚のアルバムしか残さなかった
セッション・ギタリストとしての仕事が多かったので仕方が無いといえばそれまでなのだが、タイプ的にはギター中心でなくとも需要が多くあったはずなので、本当に悔やまれる
その後、現在に至るまで未発表音源が次々とリリースされていて、今では結構な枚数になっているが、それは大村憲司の存在がいかに大きなものだったのかを示している
 
 
ところでわざわざ今回『春がいっぱい』のCD版としたのは、レコードの方を1981年の発売当時に買って持っていたからだ
しかしレコードプレーヤーが壊れてしまって、それ以降はYouTubeの音源をiTunesに入れて聴いていたのだが、「音も良くないし」と自分に言い訳してとうとう買ってしまった
 
生活に余裕のない身としては、CDでの買い替えは贅沢極まる行為であるので、レコードプレーヤーを買い換えた方がよっぽど安上がりの様な気はするが…
 
 (敬称略)