ぱらの通信

思い付きと思い込みの重い雑感集

内田樹とアルベール・カミュ

カミュの代表作『異邦人』はここ何十年間ずっとベストセラー状態だそうで、今更誰かに持ち上げられなくとも、当分はこれからも新しい読者を増やして行くだろう
 
この『異邦人』を読んで、世界の不条理を想い、また自分を異邦人と感じて、それがどの程度リアルなものなのかは別としても、ある種の中高生には堪らない読後感を残す傑作である
 
しかし、そんなところがかえってカミュというのは青春文学みたいなもので、大人が読むものではないような気がしていた(不遜にも)
 
しかし内田樹『昭和のエートス』所収「アルジェリアの影」というカミュに関しての章があるから読んでみてほしい
それはまさに「カミュ復権宣言」であり、俺みたいな半可通などは読後すぐに不遜な考えを反省、改心してしまった
 
そこには、サルトルとの有名な論争を軸に、パリ占領下の伝説的レジスタンス闘士として「自著の哲学史的重要性を彼自身の行動を通して実証してみせた」カミュの当時の立ち位置、影響力、信念などが劇的な筆致で書かれている
 
いや本当に漫画みたいな劇的さで、これはカミュ人間性やその時代に担う事になった役割もさることながら、内田樹の筆力によるところが大きいであろう
情緒が安定していない時などは泣いてしまうかもしれない
 
あとがきには『異邦人』の新訳も計画しているとあるので、そちらにも期待している
 

 

昭和のエートス (文春文庫)

昭和のエートス (文春文庫)

 

 

 

 

内田樹を初めて読んだのは十年くらい前、『子どもは判ってくれない』からで、その後もちょこちょこ読んでいたが、最近はとんとご無沙汰である

 

以前だったら、まあまあそう怒らずに、みたいなスタイルだったと思うが、ここ数年は世の中の出来事に対して苛立ちが隠せない様で、その「正義」や「正論」に何だかカルトみたいな息苦しさを感じてきたからだ

なんて、「それはあなたが馬鹿だからです」って言われてお終いかな

 

個人的には文芸評論的なものをもっと読みたいが、ここ数年はそんな暢気な仕事など後回しになっているのかもしれない

早く内田樹が苛立たなくてもいいような日本になって、また楽しい文章を書いてくれることを心から願っている

 

 

 

さて、今回ようやく『異邦人』を三十何年振りかで再読し、続けて『カリギュラ』と『転落』も読んだ

実は『異邦人』を再読した事で、主人公の母親への「理解」などの忘れていた部分を確認し、かつての少しひねくれた読み方を修正できたのは良かったと思う 

あとはサルトルとの論争から訣別に至った、問題の『反抗的人間』を読むべきところかもしれないが、序文を読んだだけで面倒くさそうだなと読むのを断念した事を告白しておく

 

 

 

ところで、この前の1月24日にイギリスのバンド The Fall の中心人物でヴォーカルのマーク・E・スミスが亡くなったとの事だ

享年61歳

ずっと闘病を続けていたようである

 

俺は1980年の『Grotesque』と『458489 A Sides』という’84年から’89年までのシングルA面集しか持ってないし聴いたことがないのでファンとすら言えないが、それでも’80年代のニューウエーブ・バンドの代表であり、本国やアメリカでは熱心なファンが多いいう事は知っていた

 

Grotesque

 

そしてこの度の訃報で初めて知った事だが、バンド名の由来がカミュの『転落』だったそうだ

それが『転落』を読んでみるきっかけだった

この娯楽性の薄い、独り芝居の脚本みたいな、フランス版『人間失格』にどんな感銘を受けての命名だったのか…

聴き続けてきた訳でもなければ、歌詞すら聞き取れない俺には何も分かる筈もなく、小説の感じから想像するよりほかない

 

心から冥福を祈る

 

 

(敬称略)