俺がロックやポップスを中心に音楽を積極的にというか意識的に聴き始めたのは中2の冬休みからで、キッカケは友達の家で流れていたYMOだった
勿論それまでも歌謡曲や所謂「ニューミュージック」なども聴いていたし、好きな歌も沢山あった
ちょっと列挙してみると
堺正章、布施明、郷ひろみ、沢田研二、太田裕美、キャンディーズ、ピンクレディー、原田真二、渡辺真知子などなど
あとサザンを初めてテレビで見たときは腰を抜かしたし、今や演歌歌手の堀内孝雄の「君の瞳は10000ボルト」なんかも好きだったし、ゴダイゴでは「モンキーマジック」「銀河鉄道999」などなどなど
しかしYMOが好きになってからは音楽の聴き方が一変した
まあ、大した事ではないのだが、アルバム中心に系統立てて聴くようになったのだ
これは単にYMOの力というよりは、年齢も含めてのタイミング的なものだろう
思春期のこういった偶発事は、その後の人格形成や人生を左右したりするから油断がならない
さて、前置きが長くなりすぎたようだが、矢沢永吉である
その当時、矢沢永吉は既にビッグスターであり、また「時間よ止まれ」のヒットもあって、ファン以外での認知度も相当な状態にあった
だがYMOのような音楽に感激した中学生には、矢沢永吉の音楽は古臭くてカッコ悪いと感じられたし、その頃の矢沢は「不良」や暴走族の教祖的存在であり、またその帝王のように見えて好きではなかった
この『成りあがり』が話題になっていたのも知っていたし、読んでる友達も何人かいたが、俺には関心が無かった、ずっと無かった
何がビッグだ、とすら思っていた(マッチとかね…)
とにかく俺は矢沢永吉も矢沢永吉的なものも嫌いだったのだ
成りあがり How to be BIG―矢沢永吉激論集 (角川文庫)
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しかしそんな俺も30歳位になった頃にはもう、矢沢永吉に対する嫌悪感は無くなっていた
どうしてなのかは自分でも分からない
たぶん俺も大人になって、若い頃のコダワリが無くなったせいだろう
歌も決して「不良」のための歌ではない事が分かってきていたし、それどころか歌の上手い大人向けの音楽を作る人だなと思い始めていた
そんなこんなで『成りあがり』を読んだのは40歳を過ぎてからだ
本屋で何となく立読みしていたら、物凄い力で引き込まれて、家でゆっくり読もうと、そのまま買って帰って来たのだった
もっとも、俺は読む前から『成りあがり』の内容の大体は知っていて、矢沢がどんな生い立ちで、どういった経緯で現在の姿になったのかも知っていた
だから、ある意味でこの本を読んでの発見はほとんど無かったと言っていい
書いてあることは、それまでのサクセスストーリーと矢沢の考え方と感じ方、それっきりだ
でもこれ、物凄いエネルギーを放出している
あの矢沢口調で、自己の信念を熱く語られたら、40過ぎのオッサンでもクラクラしてくるよ
こんなの、あの中学生の頃読んでいたらと思うとゾッとするね
今の俺からは想像もつかない事をやらかしてたかもしれない
意外に俺はこういう熱にのぼせやすい人間なのかもしれないな、と思った
いやぁ〜危なかった…
いやいや、結局大した違いなんか無かったと思うよ、っていう宿命論的な考えの人もいると思う
しかし俺は藤子・F・不二雄的なパラレルワールドが好きでね
人生がちょっとした契機で枝分かれをして、数年後には同一人物のものとは思えない位に異なったものとなり、そしてそれらが複数存在するっていう
俺は現在の自分に満足してる訳ではないが、諦念と共に大部分を受け入れている
でも、別の人生もあったのかもしれないと考える事は楽しくて、そして少し切ない気持ちになる
(敬称略)