ぱらの通信

思い付きと思い込みの重い雑感集

つぶれるまで 03:悪党列伝1

今年中にはこの社会から姿を消すであろう我が社だが、俺の中には楽しい思い出がいっぱい詰まっている
かつては沢山の社員が働く、賑やかで活気ある職場だったのだ

実際、当時の年商は地方の小売店にしては相当に高い優良企業であった
今回からは、そんな会社をこんな状態に突き落とした中心人物たちを、何人か紹介していこうと思う

悪党列伝という訳だ

中には俺の記憶違いや、事実誤認が含まれているかもしれないが、それは仕方のない事と勘弁して頂いて、それでも余計な脚色はせずに記していきたい

やはりまず最初にご登場願うのは、3代目若社長ということになろう 

 

 

将軍様誕生

3代目若社長は俺より10ばかり年下である
某国立大学に在籍していたが、父親である2代目社長の健康不安のため中退、入社ということになった

でっぷりとした体と大きな顔、狭い額、中央に集まった目、鼻、口
性格は陽気で、頭は悪くないし回転も早いから口が立つ
しかし、周囲から可愛がられ、おだてられて育ったせいだろう、多分にわがままなところがあった
入社当初は下積みと称して俺たちと同じように働いていたのだが、1年もしないうちに専務昇進となる

 

すぐに専務は20代半ばの同年代社員の心を掴み、また傍若無人振りを発揮して、父である社長を押し退け、自分勝手に会社を切盛りし始めた 

そして自分と同年代の社員を中心とした、極端な世代交代を図った会社運営を構想し、また自分の考えを押し通そうとして、よく社長と対立していた 
それはしばしば口論に止まらず、ある時など社長室で息子専務が父社長の上に馬乗りになって喧嘩していた、との証言もある 



そんなこんなで、息子は専務就任からわずか3年程度、まだ30歳前の若さで、奪うように社長の座に着き、それまで以上に会社を私物化するようになった
それは見た目も相まって、かのミサイル発射国の将軍様さながらであった

 

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 将軍様時代

さて、将軍様の経営になってからどうなったか

ある意味で活気が出たという事はあるだろう

同い歳の子分を専務にして、その他の重要ポストにも同世代の者を配置したので、若い社員たちのモチベーションは上がり、業績もさらに上昇していった

中堅社員の事も蔑ろにはしなかった

横暴ではあるが、その辺りのやり方は上手なところがあった

権利は奪うが、無視はしないというやり方だ

陰ではボロクソに言っていたが、表には決して出さなかった

 

負の面もある

若い連中のやる気が起こったのはいいが、今度は戒める者がいなくなってしまったのだ

誹謗中傷のような批判や自己顕示欲、馴れ合いが渦巻いていた

 

俺はどちらかというと若い方のグループに属していたが、そんな空気を苦々しく感じていた

しかし何もしなかったし、また仕方ないと思っていたのは卑怯だったかもしれない

そんな事より「出来る男」の振りをすることで精一杯だったのだ、というのは言い訳だろうか

 

 

その末路

多くの将軍同様に我が社の将軍様も酒と女が大好きで、様々なところでおだてられながら遊んでいたようだ

見栄っ張りというか、カッコつけというか、金に糸目を付けないというような浪費っぷりは益々酷くなる一方であったが、遂には社長就任から2年ほど経つと、別事業に大々的に乗り出した

 

しかし計画性が有ったのか無かったのか、まるで遊びのように、次々と狂ったように出店していった

銀行に融資を受けるための策略でもあったのだろうと思うが、常軌を逸した行動にしか最早見えなかった

それが、我が社が現在のような落ちぶれた状態に陥ってしまった、そもそもの大きな原因となったのだ

 

その時はさすがに昔からいるベテラン社員が反対意見を述べたが、嫌なら辞めろの一言で終わってしまった

我々一般社員も危機感はあったが、為す術を知らずという状態にあった

当時の経営者一族内部からの意見がどうだったのかは不明だが、多分口出しできないと思って放っておいたんじゃないかと思う

 

結局は5年もしないうちに20億以上の負債を抱えて本業もろとも破産

本業の方の会社は民事再生により存続する事になったが、三代目は様々な裏工作をした上で会社から去り、また経営者の一族も自分たちの権利は守られながら、そっと名簿から消えた

父親である二代目社長は、その前年に癌で既に亡くなっていた